チョコレートの原材料であるカカオマスとココアバターについてまとめていきます。
まずはチョコレートの主原料であるカカオマスについてです。
カカオマス
カカオ豆を砕いて、種皮を取り除いた胚乳部を「カカオニブ」といい、それをすりつぶしたものを「カカオマス」といいます。(海外のチョコレート製品には、ココアリカーやチョコレートリカーと表記しているものもあります。)
このカカオマスにココアバターや砂糖、乳製品などを加えて、粉砕し練り上げたものがチョコレートになります。
カカオニブをすりつぶすと、ペースト状のカカオマスになる理由は、カカオ豆に多く含まれるココアバターにあります。
カカオニブには、ココアバターが50~57%程度含まれているので、カカオニブを粉砕するとココアバターが細胞から遊離して、ドロドロのペースト状になるのです。
このカカオマス、ココアバターに砂糖や乳製品を配合して作られるのがチョコレートです。その配合により下記のように分類できます。
カカオマス | ココアバター | 砂糖 | 乳製品(粉乳) | |
ダークチョコレート | ○ | ○ | ○ | ×~△ |
ミルクチョコレート | ○ | ○ | ○ | ○ |
ホワイトチョコレート | × | ○ | ○ | ○ |
ココアバター
続いてチョコレートの口どけに重要な役割を果たすココアバターについてです。
チョコレートを食べたときのなめらかな口どけや、チョコレートの香味が素早く口に広がるのはココアバターの性質によるものです。
ココアバターは、常温では固まっていますが、25℃くらいから急速にとけ始め、32℃~33℃近辺ではほぼ完全に溶けてしまします。
融点は33.8℃なので、体温よりやや低いくらいの温度といえます。
体温近くで一気にとける植物性油脂はココアバターの他にはなく、非常に独特な性質をもつ油脂といえます。
また、ココアバターにはチョコレートに欠かせない種々の香気成分があります。
さらに、天然の抗酸化物質を含んでいるため、他の油脂とは違って酸化しにくいという優れた性質も兼ね備えています。
チョコレートのおいしさが長く保たれる理由はココアバターにあるといえます。
少し専門的な話にはなりますが、チョコレートが固まっている状況においては、ココアバター結晶が重要になります。
通常油脂は融点に応じて結晶化し、複数の結晶型をとります。
これを多形現象と言います。
ココアバターもこの多形現象を有していて、6種類の結晶型が知られています。
多形の安定性と融点は比例関係にあり、不安定多形は次第に安定多形へと変化してゆき、これに伴い融点が上昇します。
6種類の多形のなかで、チョコレートに適した多形はⅤ型結晶のみです。
安定多形であるため、融点が高く、ブルームが発生しにくいことが最大の理由です。
さらに収縮率が高いことで型からの剥離がよいという特徴や、艶がよいことも理由の一つです。
結晶型 | 融点(℃) | 艶 | 備考 |
Ⅰ | 17.3 | 悪い | 不安定結晶 |
Ⅱ | 23.3 | 悪い | 不安定結晶 |
Ⅲ | 25.5 | 悪い | 不安定結晶 |
Ⅳ | 27.5 | 悪い | 不安定結晶 |
Ⅴ | 33.8 | 良い | 安定結晶 |
Ⅵ | 36.3 | - | ブルーム発現 |
チョコレート製品は必ずⅤ型として結晶化させなければならず、そのための操作がテンパリングです。
テンパリングについては、以前の記事で軽く説明しましたが、次回詳しく解説していきたいと思います。
チョコレートの口どけは、ココアバターの産物
チョコレートの魅力のひとつである口どけには、上述の通り、ココアバターの融点が大きく関係しているといえます。
もしココアバターの融点が体温と同じくらいだったとしたら、口の中で融点に達するまでに時間がかかり、ようやくとけたころにはもたもたした感じになってしまうでしょう。
逆に、融点が1~2℃低かったら、チョコレートがベタベタになるシーズンが長くなってしまい、冬の食べ物になっていたかもしれません。
ココアバターのとける温度は、ほんの1~2℃高くても低くても不都合が生じるほど微妙なものです。
この点において、チョコレートはまさに神が人間のために作ったのではないかと思えるような特徴を持っているといえます。