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亜硝酸ナトリウム(発色剤)の発がん性は本当?食品科学者がIARC・WHOの報告を正確に解説【ハム・ソーセージ】
「ハムやソーセージに入っている亜硝酸ナトリウムは発がん性があると聞いた」「WHOが加工肉を危険と発表したって本当?」「子どもにウインナーを食べさせて大丈夫?」——加工肉の発がんリスクへの不安は、SNSで定期的に話題になるテーマです。
私は食品化学の研究者として、食品添加物のリスク評価と発がん性の科学的評価を学習してきました。本記事では、亜硝酸ナトリウムの発がん性に関するIARC(国際がん研究機関)・WHO・日本の食品安全委員会の見解を正確に整理し、「本当のリスクの大きさ」を科学的に解説します。
結論を先にお伝えすると、「亜硝酸ナトリウム単体よりも、加工肉全体として毎日大量摂取を続けることに発がんリスクとの関連が示されている。日本人の平均的な摂取量の範囲では過度に恐れる必要はないが、毎日の弁当おかずとして大量に使い続けることは避けた方が賢明」というのが食品科学者としての見解です。
亜硝酸ナトリウムとは何か:発色剤として使われる理由
亜硝酸ナトリウム(NaNO₂)はハム・ソーセージ・ベーコン・明太子・魚肉ソーセージなどの加工食品に「発色剤」として使われる食品添加物です。
亜硝酸ナトリウムが発色剤として機能するメカニズムは、肉のミオグロビン(筋肉の赤いタンパク質)と反応して安定した鮮やかな赤色(ニトロシルミオグロビン)を形成することで、加熱後も肉の赤みを維持します。これにより、消費者が「新鮮でおいしそう」と感じる見た目を実現しています。
亜硝酸ナトリウムは、食品添加物として発色剤や防腐効果を期待して使用されることがありますが、そのほとんどが「美味しそうに見せる」ために添加されています。発色以外にも、ボツリヌス菌の増殖抑制という衛生上の役割も担っており、特に食中毒リスクが高い真空包装加工肉での使用には一定の食品衛生上の合理性があります。
(おそらく発がん性)
ではリスク小
ニトロソアミン生成のメカニズム:発がんリスクの本質
亜硝酸ナトリウムの発がんリスクは、亜硝酸ナトリウムそのものというより、消化過程で生成される「ニトロソアミン」という物質によるものです。
消化過程でアミンができ、それが胃の中で亜硝酸と結合することで、発がん物質であるニトロソアミンが作られます。食品科学的に補足すると、ニトロソアミンは強力な発がん性物質で、DNA損傷を引き起こす反応性が高い化合物です。特に胃の環境(酸性)でニトロソアミンが生成されやすく、これが胃がん・大腸がんのリスクとの関連につながります。
さらに加工肉を食べると、肉類に多く含まれるカルニチンは、腸内細菌により分解され、トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)という心血管系疾患を引き起こす物質に変化します。このため加工肉のリスクは「発がん」だけでなく「心疾患」との関連も指摘されています。
食品科学者が解説:亜硝酸Naのリスク経路
- 亜硝酸ナトリウム → 胃酸・アミンと反応 → ニトロソアミン(発がん物質)生成
- 高温調理(焼く・揚げる) → ヘテロサイクリックアミン(HCA)生成 → DNA損傷
- 肉のカルニチン → 腸内細菌 → TMAO生成 → 心血管リスク
- ビタミンCはニトロソアミン生成を阻害する。野菜と一緒に食べることで一定のリスク低減効果が期待される
IARCグループ1(加工肉)・2A(亜硝酸Na)の正確な意味
IARCの判定は、世界10か国から22人の科学者が集まり、約800の研究論文から食品の発がん性を総合的に評価したものです。加工肉は2015年に発がん性リスク分類の最上位にあたるグループ1に指定され、「十分な証拠に基づいている」「偶然や偏り、混同などで説明されることは考えにくい」と結論づけられました。IARCの報告では、「毎日50グラムの加工肉を食べると大腸がんのリスクが18%上昇する」としています。
一方、IARCの発がん性分類については、内閣府食品安全委員会が、「ハザードの強さや摂取量による影響が考慮されておらず、したがって人の健康に対する影響の大きさを推し量れるものではありません」と見解を出したという点も食品科学者として重要な補足です。
IARCのグループ1は「発がん性の証拠が十分にある」を意味しますが、「どの程度危険か(リスクの大きさ)」は示していません。アルコール・タバコ・加工肉はすべてグループ1ですが、リスクの大きさは全く異なります。大腸がんリスク18%増加という数字も「ゼロから18%」ではなく、「もともとの大腸がんリスクに18%を掛けた値」です。大腸がんの生涯発症リスクが約10%とすると、50g/日の加工肉摂取では約10%×1.18=約11.8%という計算になります。この絶対リスクの増加は1.8ポイント程度です。
日本の食品安全委員会・農水省の見解:日本人のリスクは?
「大腸がんの発生に関して、日本人の平均的な摂取の範囲であれば赤肉や加工肉がリスクに与える影響は無いか、あっても、小さいと言えます」「今回の評価を受けて極端に量を制限する必要性はないと言えるでしょう。がんをはじめとした生活習慣病予防、総合的健康の観点からは、まずは『日本人のためのがん予防法』で定められた健康習慣全般を実践することが大切です」というのが農林水産省・食品安全委員会の公式見解です。
欧米に比べて日本人の加工肉摂取量は平均的に少ないため、IARCが研究対象とした欧米の食習慣(毎日大量の加工肉を食べる)とは状況が異なります。毎日のお弁当のおかずにウインナー数本を入れる程度であれば、過度に心配する必要はないというのが日本の専門機関の見解です。
食品科学者が教える実践的な対策
① 毎日食べるより「週2〜3回以内」を目安にする
加工肉のリスクは「毎日50g以上の継続摂取」で顕在化するデータが多く、週数回の摂取であればリスクは大幅に低減されます。完全に禁止するのではなく、食べる頻度と量をコントロールすることが現実的な対策です。
② 野菜・ビタミンCと一緒に食べる
ビタミンCはニトロソアミン生成を化学的に阻害することが知られています。加工肉を食べる際に生野菜・フルーツ・緑黄色野菜を一緒に摂ることで、リスクを一定程度軽減できます。お弁当にウインナーを入れるなら、ブロッコリー・パプリカなどビタミンC豊富な野菜を添えることをお勧めします。
③ 亜硝酸ナトリウム不使用の製品を選ぶ
近年は亜硝酸ナトリウムを使わない「無塩せき」製品が各メーカーから発売されています。セブンプレミアム・イオントップバリュなどのプライベートブランドにも無塩せき製品があり、スーパーで入手しやすくなっています。発色剤不使用のため色が灰色がかっていますが、それが本来の加熱肉の自然な色です。
④ 高温での焦がし調理を避ける
加工肉を強火で真っ黒に焦がして調理するとHCA(ヘテロサイクリックアミン)が生成されやすくなります。中温でじっくり焼くか、茹でる・蒸すといった調理法の方がリスクが低くなります。
まとめ
この記事のまとめ
- 亜硝酸ナトリウムはIARCグループ2A(おそらく発がん性あり)。加工肉全体はグループ1(発がん性あり)
- 毎日50gの加工肉摂取で大腸がんリスクが18%増加(相対リスク)。絶対リスクの増加は約1.8ポイント程度
- 発がんの本質はニトロソアミン・HCA・TMAOの生成によるもの
- 日本の食品安全委員会・農水省は「日本人の平均的な摂取量ではリスクは小さい。極端な制限は不要」という見解
- 実践的な対策:週2〜3回以内・野菜と一緒に摂る・亜硝酸Na不使用品(無塩せき)を選ぶ・強火での焦がし調理を避ける
- 「ゼロにする」よりも「頻度と量を管理し、野菜をプラスする」のが科学的に合理的な対策
亜硝酸ナトリウムは「即危険」ではありませんが、毎日大量に食べ続けることには科学的な根拠を持つリスクがあります。正確なリスクの大きさを知ることで、過度な不安も過信もなく、適切な距離感で加工肉と付き合えるようになります。子どものお弁当にウインナーを毎日入れることが習慣になっている家庭では、週3回以内を目安にし、残りの日は卵焼き・から揚げ・魚など別のタンパク源に切り替えることをお勧めします。亜硝酸ナトリウム不使用の「無塩せき」製品はセブンイレブン・イオン・生協などで手に入りやすくなっており、色が少し灰色がかっているのが唯一の見た目の違いです。また、ビタミンCを豊富に含む食材(ブロッコリー・パプリカ・キウイ・いちご)を毎日の食事に積極的に取り入れることも、ニトロソアミン生成の抑制という観点から食品科学的に推奨できる習慣です。バランスのとれた食事の中で加工肉の頻度を適切に管理することが、リスクを最小化しながら食の楽しみを維持する最も合理的なアプローチです。本サイトでは食品添加物の解説記事も掲載していますので、あわせてご覧ください。亜硝酸ナトリウムや加工肉のリスクについてご質問があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。
監修・執筆:azu(食品化学研究者)
農学部卒業後、大学院にて酵素研究を専攻(修士課程修了)。現在は食品メーカーにて研究職として勤務。保有資格:食品衛生管理者・毒物劇物取扱責任者・甲種危険物取扱者・食生活アドバイザー3級。