甘味は、その食べ物が人にとって好ましい安全なものであることを示唆するシグナルと考えられ、4つの基本味の中でも特に親しまれてきました。
甘味物質を代表するものは、スクロース(砂糖の主成分)を始め、糖類が主ですが、それ以外にも天然物や合成化合物で強い甘味を示すものが知られています。
糖の味は一般に感応が早く後味もないので好ましい味であり、特にスクロースは重厚な味があります。
グルコースはスクロースに比べてマイルドな甘味で、特に結晶は舌の上で清涼感を示し、これはグルコースが溶解する際に生じる吸熱反応が、スクロースに比べて大きいためと言われています。
グルコースのカルボニル基を水素添加法などによって還元したソルビトールでも甘味があり、またエチレングリコールやグリセロールでも甘いことから、ポリオール構造(OH基を多数保有)が甘味発現に関与しているとされています。
グルコースのエピマー(1箇所だけOH基とH基の位置が変わり立体配置の異なる)であるマンノース、ガラクトースは甘味が落ちます。フルクトースは強い蜜のような甘味があり、温度が低いほうが甘味が強いことが特徴です。
フルクトース(果糖)は水溶液でピラノース構造(六員環構造)とフラノース構造(五員環構造)をもち、温度が上がるとフラノース型が多くなるため、甘味に温度依存性の差があります。
この性質を利用して、フルクトースは清涼飲料水や発泡酒などの飲料に広く用いられています。
フルクトースが用いられている食品は原材料表示を見ることで確認でき、果糖や高果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖などの表示があります。
また、最近では高甘味度甘味料と呼ばれる砂糖の数十倍から数百倍の甘さを示すものがあり、様々な食品に使用されています。
この背景としては、カロリーオフや糖尿病予防の目的としての需要が大きくなったことに起因すると考えられます。
タンパク質の構成成分であるアミノ酸にも甘味を示すものがあり、アミノ酸は不斉炭素がありますので光学異性体が存在し、L-系のものには苦味を呈するものが多く、一方D-系のものは一般に甘味を示します。
またアミノ酸が複数個つながったペプチドにも甘味を示すものがあり、ペプチド系人工甘味料である高甘味度甘味料として、アスパルテームがありますが、こちらはスクロースに似た甘味を持つため、様々な食品に広く利用されています。
ただし、メチルエステルが加水分解されると甘味を完全に消失するといった特徴を持ちます。
タンパク質系甘味物質としては、モネリンと呼ばれる西アフリカ原産の植物に含まれる物質が知られています。
それ以外にもタウマチンと呼ばれる西アフリカの木の実の甘味成分も存在し、これら2種類のタンパク質はヒスチジンを全く含まないことが特徴です。
テルペン配糖体の甘味物質として、グリチルリチンという甘草に含まれるトリテルペン配糖体が知られています。
このグリチルリチンはスクロースの200~300倍の甘味を示しますが、発現が遅くかつ後味が残るのが特徴です。
グリチルリチンが含まれている甘草抽出物は、塩味で隠されているうま味を引き出す効果があり、しょうゆや漬物用に用いられています。
また、ステビアと呼ばれるキク科植物の葉に含まれるステビオシドも甘味物質に1つです。
テルペン配糖体の甘味発現のメカニズムとしては、分子の両端にカルボキシル基を有すテルペン配糖体は、全体が逆U字型になって甘味受容体と相互作用するといわれています。
フェノール配糖体としてはジヒドロカルコン誘導体が知られています。
グリシフィリンはオーストラリアで甘味がある木として知られていたものの成分で甘味もありますが、苦味もあるのが特徴です。