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酵素プロテアーゼの食品利用
産業界では様々な酵素が利用されていますが、特にタンパク質分解酵素であるプロテアーゼは食品分野を中心に様々な利用方法が開発されています。
本記事では、プロテアーゼの概要と利用についてまとめてみました。
プロテアーゼとは
プロテアーゼとはペプチド結合を加水分解する酵素の総称であり、大別するとプロテイナーゼ(エンドペプチダーゼ)とペプチダーゼ(エキソペプチダーゼ)の2種類に分けられます。
プロテイナーゼは、タンパク質のペプチド結合をランダムに加水分解する酵素であり、ペプチダーゼはペプチド鎖のアミノ末端あるいはカルボキシ末端のペプチド結合を加水分解する酵素で、ペプチド鎖の末端から順次アミノ酸を遊離させます。
ペプチド結合とは、タンパク質に見られる結合様式であり、タンパク質を構成するアミノ酸のカルボキシル基である-COOHと、別のアミノ酸のアミノ基である-N2Hとが、脱水縮合した結合-CO−NH−です。
少し専門的な話で難しいですが要約すると、プロテアーゼはタンパク質を分解する酵素と思って頂ければ大丈夫です。
私たちはタンパク質を栄養素として摂取していますが、タンパク質を栄養源にするためには、アミノ酸に分解しなければなりません。
そのときにタンパク質に作用するのがプロテアーゼであり、私たちの体の中で消化酵素として働いています。
私たちの体の中では主に胃液に含まれるペプシンや膵液に含まれるトリプシンやキモトリプシンと呼ばれるプロテアーゼが存在します。
それぞれの酵素は作用するpH帯や部位が異なり、各酵素が協奏的に反応することでタンパク質をバラバラにし、アミノ酸まで分解することで私たちは栄養素として取り込んでいます。
プロテアーゼの種類
プロテアーゼにはたくさんの種類が存在します。
上述しましたが、私たちの体の中にも様々なプロテアーゼが存在し、例えばペプシンやトリプシン、キモトリプシンと呼ばれるものがあります。
たくさんの種類が存在するプロテアーゼですが、その分類の仕方も様々なものがあります。
分類の方法は、例えば分解の位置による分類、作用する基質による分類、反応に働く物質による分類、反応するpH帯による分類などがあります。
下記にその分類について説明します。
分解の位置による分類
エキソペプチダーゼ;ペプチド鎖の配列末端から分解するもの。
エンドペプチダーゼ;ペプチド鎖の配列をランダムに分解するもの。
基質の大きさによる分類
プロテイナーゼ;タンパク質を分解するもの。
ペプチダーゼ;タンパク質より分子量の小さなペプチドを分解するもの。
反応に働く物質による分類
セリンプロテアーゼ;反応に触媒残基であるセリンというアミノ酸が関与するもの。例:キモトリプシン、スブチリシン、ナットウキナーゼ。
アスパラギン酸プロテアーゼ;反応に触媒残基であるアスパラギン酸というアミノ酸が関与するもの。例: ペプシン、カテプシンD、HIVプロテアーゼ。
金属プロテアーゼ;反応に金属イオンが関与するもの。例: サーモリシン。
システインプロテアーゼ;反応に触媒残基であるシステインというアミノ酸が関与するもの。例: パパイン、カスパーゼ。
N-末端スレオニンプロテアーゼ;反応に触媒残基であるスレオニンが関与するもの。
グルタミン酸プロテアーゼ;反応に触媒残基であるグルタミン酸が関与するもの。
反応するpH帯による分類
アルカリプロテアーゼ;反応するpH帯がアルカリ性のもの。
酸性プロテアーゼ;反応するpH帯が酸性のもの。
プロテアーゼを含む食品
タンパク質分解酵素であるプロテアーゼを含む食品は数多く存在します。
下記に代表的な食品を記載します。
・果物
パイナップル、キウイ、マンゴー、パパイヤ、イチジク、メロン、梨、アボカド等
・野菜
しょうが、大根、タマネギ、セロリ、ピーマン、パセリ、にんにく、パプリカ等
・菌類
キノコ類、納豆、塩麹、味噌、ヨーグルト等
上記の通り、かなりたくさんの食品にプロテアーゼが含まれています。
とくにパイナップルや麹などは、お肉と一緒に料理に使うことで、お肉を柔らかくできますよね?
あれは含まれているプロテアーゼによって、お肉に含まれるタンパク質を分解することで柔らかくしています。
次の項目では、このようなプロテアーゼの利用例について説明します。
プロテアーゼの利用
プロテアーゼは食品分野や工業分野において様々な利用法が開発されています。
衣料用洗剤
衣料用の洗浄剤や漂白剤には、その洗浄力を高めるために各種の酵素が配合されていますが、最も工業的に大量に生産されている衣料用酵素はアルカリプロテアーゼ等のプロテアーゼです。
プロテアーゼを洗剤に配合することで、タンパク質汚れを効果的に除去することが可能です。
焼酎の製造
一般的な焼酎の製造では、麹に、水、酵母、炭水化物原料を添加して発酵させることによりもろみを製造し、それを蒸留することにより焼酎原酒を得ます。
麹や酵母のプロテアーゼによって、アミノ酸濃度が向上し、焼酎を好ましい香気性に変化させることが可能です。
菓子類の食感改善
パン・菓子等の穀粉を主原料とする加熱調理食品では、混練により生地中にグルテンのネットワークが形成されます。
このグルテンのネットワークは生地の構造を保つのに重要である一方で、硬い食感をもたらしたり、口ごなれを損なう場合があります。
プロテアーゼを添加することによって、このネットワーク構造を改変し、サクサクとした口溶けの良い食感へと変えることが可能です。
タンパク質消化速度の向上
プロテアーゼを補助食品として摂取することで、タンパク質の消化速度及び吸収を増加させることが可能であるため、高タンパク質
食品を摂取する際に有効です。
お肉などをたくさん食べる機会、即ちBBQや焼き肉、しゃぶしゃぶなどにはプロテアーゼを含む食品を一緒に摂取することで消化を助けることが可能です。
お肉の軟化
プロテアーゼを利用することで、お肉に含まれるタンパク質を分解し、固い筋の部分などを柔らかくすることが可能です。
プロテアーゼが含まれている味の素の「お肉やわらかの素」をお肉にまぶしておくことでお肉を柔らかくジューシーなものにすることが可能です。
お肉やわらかの素以外にも上記のプロテアーゼが含まれている食品でも代用することが可能です。
ただし、プロテアーゼ処理を行う際は、加熱していないものを使用しましょう。
酵素は加熱することで、効果が失活してしまうからです。