世界中の国で、子供から大人まで多くの人々に愛されるチョコレート。
私たちの生活には欠かすことができない存在と言っても過言ではないです。
普段何気なく口にしているチョコレートですが、そこには深い歴史と変遷がありました。
カカオの歴史
まず、チョコレートの原材料であるカカオの歴史から紐解いていきます。
カカオは、中央アメリカから南アメリカの熱帯地域を原産とする、アオイ科の植物です。
18世紀にスウェーデンの植物学者であるリンネという人物が「テオブロマ カカオ リンネ(Theobroma cacao Linne)」という学名を命名しました。
ギリシャ語で「テオ」は「神々」、「ブロマ」は「食べ物」という意味です。
カカオはその名の通り「神々の食べ物」として珍重されていました。メソアメリカ(メキシコおよび中央アメリカ北西部)では、カカオの実を神に捧げている石彫が各地で出土していることから、カカオは神々に捧げられた特別な作物であったことがわかります。
カカオは、紀元前2000年頃からメソアメリカで栽培されていたと推定され、最初は飲み物や精力剤として飲まれていました。
しかも、それは今のように甘いものではなく、トウガラシやトウモロコシなどの粉を混ぜたスパイシーな飲み物でした。
この飲み物は、16世紀初めにメキシコを支配したスペイン人によってその存在がヨーロッパに知られました。
そして、長い歳月をかけて徐々に工夫され、ヨーロッパ人の嗜好に合わせた甘い飲料となって広まっていったのです。
19世紀に入ると、飲料として飲みやすくするためにココアプレス(搾油)技術が開発され、1847年には「イーティングチョコレート」つまり「食べるチョコレート」が誕生しました。
1876年には、ミルクを混ぜたミルクチョコレートがスイスで考案され、現代のチョコレートの原形といえるものが生まれました。
カカオには4000年もの歴史がありますが、現在のような食べるチョコレートになってからは、わずか170年ほどしか経っていないのです。
カカオの生態と出荷までの流れ
カカオが植物として発芽し実を結ぶまで、そして収穫から出荷されるまでの流れをみていきます。
カカオの樹は、高さ6~7m、幹の太さは10~20cmほどになり、苗から育てた場合、3~4年くらいから結実します。
カカオの葉は風に弱く、直射日光を好まないため、木が大きくなるまでは、日陰樹(シェイドツリー)を必要とします。
一般的には、日陰樹としてバナナの樹が使われるようです。
そして、大きさ1cm程度のかわいらしい花が1年中咲きます。
枝先だけでなく幹の太いところにも花をつけ、虫が感じられる程度の弱い香りを放ち、受粉をうながします。
受粉した花は、約6か月後に結実します。
その実は「カカオポッド」と呼ばれ、長さ約15~20cm、直径7~15cm、重さ250g~1kgほどになります。
半年に1回結実するので、年に2回の収穫が可能で、1本の樹に年間で平均20~30個ほどの実がつきます。
成熟したカカオポッドは、厚さ約1cmの堅い殻を持ち、その中に「パルプ」と呼ばれる白くヌルヌルとした甘酸っぱい果肉が存在します。
その果肉の中にカカオ豆があるのです。
1個のカカオポッドの中には、30~40粒ほどのカカオ豆が入っています。
収穫は、ナタや、長い棒の先にナイフをつけた道具で、カカオポッドを切り落として行います。
その後、カカオポッドを割り、白いパルプごとカカオ豆を取り出します。
そしてパルプごと、バナナの皮で覆ったり、木箱に入れたりしてカカオ豆を発酵させるのです。
高温多湿の自然環境と天然の微生物の働きによって発酵は進んでいきます。
はじめ、カカオ豆を包んでいたパルプは、微生物による発酵でほとんどが液化してなくなります。
この時点でカカオ豆は、発酵により化学変化を起こし、チョコレート色に変化し、独特の香りを放つようになっています。
そして、このあとのローストという工程でチョコレート香味となる前駆体が生成されるのです。
発酵はチョコレートのおいしさを左右する重要な工程といえます。
発酵後のカカオ豆は約40%以上の多くの水分を含んでいます。
貯蔵や輸送中における腐敗を防ぐため、約7~8%程度になるまで、天日乾燥または機械で人工的に乾燥させます。
乾燥が終わったカカオ豆は、主に麻袋に詰められて消費国へ船舶で輸出せれます。
ここまでが、カカオ生産国での仕事となります。
チョコレートは発酵食品!?
チョコレートの味わいや香味を決めるのに特に重要といえるもののひとつが、カカオ生産国で行われる「発酵」です。
カカオ豆は、パルプとともに5日~1週間ほどバナナの葉の下などに放置され発酵していきます。
人の手や、カカオポッドを割ったときのナイフ、バナナの葉などに常在する微生物の働きが発酵をうながしています。
カカオの品質が生産地によって大きく異なるのは、働いている微生物が違うことが理由のひとつだと考えられています。
カカオ豆の発酵は、チョコレートの香味を決定づける重要なプロセスであることから、チョコレートはワインやチーズ、味噌や納豆と同じような発酵食品と言っても過言ではないかもしれません。