増粘剤や糊料等として、様々な分野で使用されているHPMCはご存知ですか?
HPMCは正式名称ヒドロキシプロピルメチルセルロースといい、セルロースの誘導体にあたります。
本記事では、HPMCの性質や、利用例などについて記載しました。
Contents
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)とは
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、メチルセルロースにヒドロキシプロピル基を導入したセルロースエーテルであり、多糖類の一種です。
以前、当ブログでも紹介したカルボキシメチルセルロース(CMC)と同じようなセルロース誘導体(セルロースエーテル類)です。
カルボキシメチルセルロースについては、下記リンク先の記事をご覧ください。
HPMCは、日本においては平成 2003年6月に食品添加物として指定され、カプセルや錠剤のバインダーとしてのみ使用が認められていました。
しかし、基準が改められ、2007年2月からは様々な食品に利用可能となったことから、現在では広く使用されています。
HPMCの構造と製造方法
HPMCは、セルロースをメチル化した後、ヒドロキシプロピル化することで得られるため、下の図のような構造を有しています。
HPMCの構造
具体的な製法としては、セルロース純度の高いパルプ等から粉砕、アルカリ処理等によって、セルロース質原料を得ます。
その後、アルカリ条件下にてセルロースと試薬(塩化メチル、プロピレンオキシド等)を反応させ、HPMCを製造します。
反応の際には、セルロースの分散性、あるいは塩基及び試薬との混合性を改善する目的で、有機溶剤の存在下で反応を行う場合もあります。
また、その場合出来るだけ均一に混合が可能である装置を用いることが好ましく、樹脂等を混錬するニーダーや、スラリー状にして反応させるタンクのようなものが用いられていると推定されます。
HPMCの安全性
HPMCの安全性について、原料のセルロースはブドウ糖が重合したものであり、また食経験が十分にあるため安全性が極めて高いものといえます。
また、HPMCについては、食品添加物専門家が安全性に関して議論する世界的な会議であるJECFAによると、長期投与試験や発がん性試験において、毒性は確認されず、一日摂取許容量ADIを特定しないとしているため、安全性の高い物質であるといえます。
HPMCの性質
HPMCは多糖類であるため、多糖類の一般的な性質である水に溶解すると増粘することや、ゲル化する機能などがあります。
しかし、実はユニークな性質がいくつかあります。
冷水に溶解し、温水には溶解しにくい
通常多糖類は、温度を上げることで水への溶解性が向上します。
これは、水素結合性が温度で低下すること等が関係しています。
しかし、HPMCは、熱水には溶けず冷水で溶けるという、他の多糖類とは異なる性質があります。
理由は不明ですが、メトキシ基による疎水性相互作用が高温であると増加すること等が関係していると考えられます。
加熱するとゲル化
この性質に関しても、通常の多糖類とは逆の性質であり、多糖類は温度を低くすることで水素結合性が増加しゲル化する性質があります。
しかし、HPMCは50℃~90℃に加熱するとゲル化あるいは増粘するという性質があり、冷却すると粘度が低下し元に戻るという性質があります。
詳細なメカニズムは不明ですが、こちらもメトキシ基による疎水性相互作用が関係していると考えられています。
その他の性質
その他、他の多糖類にもよく見られる性質ですが、泡を保持したり、油滴を保持、水の表面張力を低下させる乳化効果があります。
また、物質の水分移行を阻害する性質があります。
HPMCの利用例
HPMCは食品分野や医薬品分野で様々な用途で利用されています。
食品分野での利用
ベーカリー分野では、HPMCの乳化効果を利用してキメの調整等に利用されることや、グルテンフリーパン等に、グルテンの代わりに使用して生地の保形性を向上させます。
また、HPMCの加熱するとゲル化、増粘する性質を利用して、ソース類に添加することで、電子レンジ調理等の加熱調理時にソース類が素材から漏れないようにすることが可能です。
その他、フライ食品に使用することで、フライ中の水分蒸発を防止しフライ後の具材水分を保持したり、吸油を抑制することが可能です。
医薬品分野での利用
医薬品分野では、主に錠剤に利用されています。
錠剤のバインダーとして利用することで、錠剤の硬度を高めたり、摩損の防止、錠剤成分の安定性向上目的で使用されます。